逃げ惑う恋心(短編集)
そんなふたりの恋の距離
そういえば最近良ちゃんの部屋に遊びに行っていないなあ、と。ふらっと顔を出してみた。
ピンポンダッシュをしても良かったんだけど、前に雑誌やネット番組で暴露されてしまったから、今日のところはピンポン連打にしておく。
ゲーム名人ばりの手さばきでピンポン連打すると、すぐに勢い良くドアが開く。
てっきり良ちゃんが「やっぱりー。大ちゃんだと思ったー」と言ってのほほんと登場するんだと思ったのに。
「やっぱり。大ちゃんだと思った。やめてよ、訴えるよ」
ドアの向こうに立っていたのは、予想外の人物。良ちゃんでも、まして男でもなかった。
何度も共演している役者仲間の美桜。えらい不機嫌な顔だった。
「良くん寝てるけど。どうしたの? 用事?」
「あー、いや、用はないんだけど、良ちゃん何してるかなあって。え、ていうか付き合い始めたの?」
聞くと美桜は眠そうに、だるそうに頭を掻いて、首を横に振る。
最近忙しいらしく、コンビニ売りのインスタント食品や弁当を制覇してしまいそうだという良ちゃんのために、定期的にごはんを作りに来ている。美桜はそう説明しながら俺を部屋に招き入れた。
家主の睡眠中に客人を招き入れる程度の権力は持っているらしい。
「いたずらするの禁止ね。騒ぐのも飲酒も禁止」
「そんなことしないって」
「どの口が言うか、前科持ちが」
「あれ、ばれてる?」
「前に大ちゃんが壁と床に書いた落書きを消したのも、テーブルに施したホイップクリームとチョコのデコレーションを片付けたのもわたし」
「……ごめんなさい」