逃げ惑う恋心(短編集)
愛情に宣戦布告


 そりゃあ舞台やら撮影やらで全然連絡しなかった俺が悪い。
 香世も香世で気を使っているのか全然連絡寄越さないし。

 一ヶ月ぶりに連絡して、部屋に行っていいかって言ったら、香世は「あ、うんいいよー」とまるで昨日も会ったかのようにあっけらかんと返した。

 一ヶ月も放っておいたのにあれこれ言える立場じゃないが、もっと、会いたかったとか楽しみにしてるとか言ってほしかった。

 実際部屋に行っても、連絡しなかったことを責めるわけでもなく、仕事の話をするでもなく、テレビを観たりなんでもない雑談をしたり。驚くほどいつも通りの時間だった。

 ただ、唯一香世が声を弾ませたのが、近所の祭に行ったという話。たこ焼き食べて、綿菓子食べて、焼きそば食べて、りんご飴食べて、金魚すくいに水風船に射的、打ち上げ花火……。とにかく満喫したみたいだ。
 左手の小指につけているカラフルなおもちゃの指輪は、祭で買ったものなのかもしれない。

 指輪を見ていることに気付いたのか、香世は「いいって言ったのにおそろいで買ってもらっちゃったの」とへらっと笑いながら言った。

 買ってもらった? おそろいで?

 名前しか知らない、香世と一番仲が良い子が浮かんだが、アラサーの女子ふたりがおそろいでおもちゃの指輪を買うとは思えない。

「……おまえ、祭誰と行ったの?」

「え? はるくんだよ」

 はるくん? 誰だ? 平澤? 平澤春泉か?

 なんにせよ……。

「男、だよな?」

「そうそう。金魚はね、はるくんが掬った一匹とわたしが参加賞でもらった一匹、どっちもはるくんちで飼うことにしたから、代わりに指輪を買ってくれたの」

「へえ……」

 なんだ? なんでこんなにへらへらしながら、他の男と遊びに行った話ができるんだ?

 香世にその気がないとしても、その「はるくん」ってやつはしっかり気があるだろうし。じゃなきゃおもちゃとはいえ指輪を買ったりなんて……。こいつ、気付いてんのか?



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