逃げ惑う恋心(短編集)
その恋は僕を成長させる
風邪をひいた。
昨日から調子悪いなあとは思ってたけど、熱が出て咳と鼻水も止まらないから、病院で診察してもらうまでもなく風邪だろう。
風邪をひくと、ひと肌恋しくなるのはなぜだろう。
久しぶりに「今晩暇?」と電話してきた圭吾に、一人暮らしの寂しさについて小一時間語ってしまった。わりとどうでもいい話だった。
とにかく今日がオフで良かった。丸一日寝ていたら良くなるだろう。
ばさりと毛布をかぶって、丸くなって目を閉じる。
と、思ったら、ピンポンが鳴った。目を閉じていたのはほんの三秒だった。
居留守を使おうと思ったら、今度は携帯が鳴る。
やだやだ! 頼むから寝かせてよ! 俺風邪っぴきなんだけど!
電話の相手によっては罵詈雑言浴びせてやろうと思ったけど、ディスプレイに表示されていたのは意外な名前。香世ちゃん。圭吾の彼女だった。
「もしもし顕くん大丈夫?」
「あ、あー、うん大丈夫、かも。圭吾から聞いたの?」
「うん、朝電話で寂しそうだったって聞いて」
圭吾のやつ、なに香世ちゃんにちくってんだ!
「それで、差し入れ持ってきたんだけど……。玄関まで出て来れる?」
「はっ!?」
飛び起きた。
さっきのピンポンは香世ちゃんだったんだ。