逃げ惑う恋心(短編集)
「香世ちゃんは、さあ。なんで圭吾と付き合おうと思ったの?」
聞くと香世ちゃんはきょとんとして首を傾げる。
「さあ?」
「ええっ? なに、そんなわけも分からず付き合ってんの?」
「なんていうか、圭吾くんといると楽だから。好きとか嫌いとか置いといて、気を使うことなく一緒にいられるひとが圭吾くんだったから、かなあ」
「ああ、そっか……」
そういうことね。同時期に知り合った、俺でも春でも大ちゃんでもしーちょんでもなく、圭吾。
楽なのが一番だわな。俺も圭吾といると楽だしテンション上がるし。だから香世ちゃんの気持ちはよく分かる。
「じゃあ馴れ初め聞かせてよ。告白はどっちからしたの?」
この質問にも、きょとんとして首を傾げる。
「してないよ」
「……」
もうつっこむまいと思っていても、口を開いてしまうのは性なのか。
「じゃあ、圭吾と香世ちゃんって付き合ってないの?」
「付き合ってると思う」
「告白してないのに?」
「好きです付き合ってくださいを言わなきゃ付き合っていることにならないのなら、付き合ってないかもしれない。でもいつも一緒にいるし、キスもそれ以上のこともするし、この前圭吾くんの実家に遊びに行ったし。多分付き合ってるよ」
キスもそれ以上もことも、というのは正直聞きたくなかったけれど(だって友だちのエロってなんか恥ずかしい!)、ああ俺ってダサいかも。
告白とか、どこが好きとか嫌いとか、そんな表面的なことばっかり気にして。
圭吾と香世ちゃんは適当だけれど、ちゃんと深いところで繋がっている。俺や春や大ちゃんやしーちょんが入り込めないくらいに……。
「あ、ちょっと眠くなってきた……」
「うん、ゆっくりお休み」
毛布をかけ直して、香世ちゃんは優しく俺の腹をぽんぽんする。
あーあ。やっぱり圭吾ばっかりずるい。こんな香世ちゃんの優しさひとりじめだもんな。
俺だって、俺だって……。
「ほーたーるのーひーかーぁり、まーどーのーゆーうーきー」
「……香世ちゃんそれ子守歌じゃなく閉店……」
やっぱり、おれじゃあ色々役不足かもしれない。
この適当さや優しさを全部分かって活かせるのは、圭吾だけかもしれない。
香世ちゃんの声を聞いていたら、なんだかじぃんと目頭が熱くなった。
(了)