俺が思い出させてやる
プロローグ
入学してから少し経った。
桜が散り、5月に入った。

いつもの日常がはじまる。至って変わらない。
教室には半分くらいの人がいた。

その中にいた私は黙って席に着いていた。

「咲夜ちゃんおはよう!」

笑顔で言ってきたのは音無夏希。記憶喪失になる前からの私の友達らしい。明るくて人懐っこく、前向き。

「おはよう。」

無表情で返した。
それが今の私の接し方。
前の私は夏希みたいに笑って返しただろう。

「今日ね、転校生が来るんだって!」

「転校生…。」

はっきり言ってどうでもいい。誰が来たってどうせこの日常は変わらない。

「しかもね、男子ですごくかっこいいらしいよ!」

「そうなんだ…。」

そんなことを話しているうちにチャイムが鳴った。みんなは自分の席に座り始めた。
チャイムが鳴り終わったあと、先生が入ってきた。

「このクラスに転校生が来ました。今から紹介します。」

先生が「入ってきて」と言うと転校生が入ってきた。

「一条叶汰です。よろしくお願いします。」

スラッとした体格で少し猫っ毛の茶色い髪。
女子たちはキャーキャー騒いでいた。

「めっちゃかっこよくない!?」

「こっち見て〜!」

「こら、うるさいぞ〜。じゃあ、席は…

伊吹の隣な。」

一条は私の隣に座った。

「…伊吹だっけ?」

「そうだけど。」

「下の名前は?」

ちょっとしつこい。

「…咲夜。」

「咲夜ね、よろしく!」

一条は笑って言った。
私は無視した。いきなり下の名前で呼ばれて馴れ馴れしい。

そう思っていると先生の話が終わっていて、休憩時間になった。一条の周りには女子が集まってきた。

「一条くんどこから来たの?」

「神奈川。」

「ねぇ、今日ヒマ?」


うるさい。どっか行ってほしい。
私は立ち、そこから離れようとすると

「どこに行くんだ?」

「別に。あなたに関係ない。」

そう言い私は教室から出た。





叶汰side


咲夜どこに行くんだ?

すると1人の女子が言った。

「伊吹さんはほっといていいよ。」

「いつもあんな態度だし。」

1人、2人と増えていく。

…イラつく。お前らの方こそ態度悪いだろ。

「あー、記憶喪失だもんね?」

記憶喪失?

「記憶喪失って。」

「何か交通事故のとき記憶喪失になったんだって。」

「その前まではあんな態度じゃなかったらしいよ?」

…記憶喪失、か。アイツ、思い出そうとしてんのか?

俺は席から立ち、教室を出て咲夜を追った。

咲夜side

なにあいつ。しつこいしウザい。

「何で隣なの…。」

「咲夜!」

その声には聞き覚えがあった。

「一条…。」

いま一番会いたくない人。
一条は私の前に来た。

「お前さ、記憶ないんだな…。」

「…そうだけど。なに。」

「思い出そうとしてるのか?」

「別に。」

本当にしつこい。

「じゃあ、俺が思い出させてやる。」

「は?」

思い出させてやる?意味わかんない。

「いい。私に構わないで。」

「嫌だ。」

「ほっといて。」

「嫌だ。」

「〜っ!なんで私に構ってくるの!」

今日初めて会ったのに何でそんなに構ってくるの!?鬱陶しい…。

「ほっとけないから。」

まっすぐ私の目を見て言った。

「…意味分かんない。」

「とにかく、思い出させてやるから!」

一条はそう笑って言い、教室に戻っていった。

「…本当に意味分かんない。」

私は呟いた。
でも、嫌な気持ちじゃない。

「一条…か。」

ちょっと気になり始めた咲夜だった。

end


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