上司がキス魔で困ります

「安良田。俺が話をつけるから、春川くんを連れて会社に戻ってろ。とにかくここから一刻も早く離れるんだ」
「アイアイサー!」


 びしっと敬礼をして、安良田は私の手をつかみ、あれよあれよと、私を佐々木産業から連れ出し、会社の前に停めてあったタクシーに押し込んだ。


「ねぇ、なんで課長と来てくれたの!?」
「俺だって聞きたいよ。春川ちゃん、なんであそこのセクハラ黙って耐えてたの」
「う……」
「そりゃお得意様の一つだけどさ。社員を泣かせてまで取らなきゃいけない仕事じゃないっしょ」
「ごめん……」
「いや、俺も課長も、なんとなく様子が変だなーとは思ってたんだよ。でも春川ちゃん仕事できるから、大丈夫かなって、見逃してた……ごめん」
「どうしてわかったの?」
「課長が様子が変だって言い出して、秘密裏に俺に調査依頼が来た。だからここの女子に聞いたんだ」


 そして安良田は、うつむく私の顔を覗き込む。


「課長が心配でたまらないって顔してる」




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