上司がキス魔で困ります

「……うん」
「大丈夫だよ。ここに来るまでに、社長にまで話つけてたもん。仮にここで佐々木産業と取引がなくなったとしても、若手のホープの春川ちゃんや音羽さんのほうが、会社としては千倍価値があるってわかってるよ」


 安良田はそうはいうけれど、せめて課長に……良悟さんに迷惑がかからないといいけど……。





 会社に戻って終業を待つ間、一応パソコンに向き合ってはいたけれど、全くと言っていいほど何も手につかなかった。

 やがて終業を迎えてみんな帰っていく中、安良田がこっそり教えてくれた。


「課長、今、出先で社長たちと話してるって。もうすぐ戻ってくるよ」
「……ありがとう」


 見ればフロアには誰もいなくなっている。

 ドキン、ドキン、と心臓が鼓動を刻む。
 手のひらに汗までかくし、無性に喉が乾いてきた。



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