上司がキス魔で困ります
見つからないよう、そーっと【MERI】の事務所内をのぞいてみれば、案の定、みんなが帰った後ただ一人残っていたらしい仕事人間の音羽課長と、ふわふわ系女子の姿が。
「音羽さんのこと前からいいなって思ってて、でもお食事にお誘いしてもいつも断られるし、だからもうこれはいきなり申し込むしかないなと思って! 私のこと、嫌いですか?」
そして女性は、微動だにしない課長に詰め寄ろうと一歩足を踏み出す。
あれはきっとしがみついて上目遣いでウルウル作戦のつもりだったんだと思う。
けれど音羽課長は、まるで犬にしつけをするみたいに手のひらを女子に向け、ストップさせると涼しげな声で言い放ったのだ。
「好きというのは、気の迷いだ」