上司がキス魔で困ります
溺れるものは藁をも掴むというけれど、とっさに手を伸ばし、音羽課長のカーディガンの背中をギュッと握っていた。
「……二人に頼みがある」
そんな空気の中、音羽課長はいつもの調子で淡々と口を開く。
「ええっ、なんですか!?」
「なんでもいってくださーい!」
「そうだ、連絡先とか交換しません?」
村上さんがスマホを出して課長を見上げた。
「いや、ここで済むからその必要はない」
「えっ?」
「めぐを合コンに誘うのはやめてくれ。それだけだ。やっとの事でここまでこぎつけたのに、いまさら他の男に横取りされるのは困る」
そして課長は背中をつかんでいた私の手をつかみ、そのままギュッと握りしめた。
その力強さは痛いくらいで。でもとても頼もしくて、悲しくもないのに涙が出そうになった。