上司がキス魔で困ります
無視ゲームは数ヶ月で終わったけれど、学校と家しか知らない私の狭い世界は、真っ黒に塗りつぶされてしまって、今でも私の心のどこかに、暗い影を落としたままだ。
もちろん世の中にはそんな経験をバネにして強くなる人はたくさんいる。立派だと思う。
けれど私はとても弱虫で、チキンヤローで、弱虫のまま大人になってしまった。ダメ人間だ。
「春川くん、それは」
「あっ、そういえば、さっきめぐって呼びましたね」
「……そりゃ、前から呼びたいと思っていたから、これはいいチャンスだと思ったんだ」
課長の指が、顔の上で交差している私の手に触れる。そしてぎゅっと握りしめたままの指を、両手で包み込むようにしてゆっくりとほどいていく。
「で、君さえよければ、二人の時めぐと呼びたいがどうたろう」
「……っ」
「めぐ」
隠した腕の下の私の顔は、涙でぐちゃぐちゃだった。