上司がキス魔で困ります

 涙はとっくに乾いてるし、変なところはないと思うんだけど。

 ビクビクしながら蘭ちゃんを見上げると、彼は綺麗な眉をぎゅっと寄せて、首を振った。


「俺の妹は天使か」
「は?」
「ノリちゃんにやってもらったんだね。あー、めっちゃくちゃ可愛い。天使。世界中に自慢して歩きたい。俺の妹は地上に舞い降りた天使だよって」
「……やめて」


 我が兄ながら恥ずかしすぎる。
 靴を脱いでそそくさと自分の部屋に入った。

 なのに蘭ちゃんは余裕で部屋の中までついてきて、
「めぐちゃん、やっぱりデートしよう。出かけるのきついならコンビニまででもいいから。アイス買いに行こう」
と、うるさいことこの上ない。


「行かないよ」
「やだ、自慢したいんだよ!」


 こんなこと血相変えて言うことだろうか。

 結局私が折れるしかなかった。
 蘭ちゃんは私に甘いけどめっちゃくちゃ頑固だからな……。

 私に好きな人が出来たなんて知ったら、どうなるだろう。


 もしかしたら応援……いやないな。ないない。

 考えるのも億劫になるレベルで憂鬱な気分になった。
 


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