あったか☆ドーナッツ
すると隣からクスクスと笑う声が聞こえた。博人だ。見上げれば私を笑っている。ただし、優しく包み込むような表情で。


「博人?」
「ごめんごめん。可愛いなあと思って」
「この消しゴムはんこが?」
「違う違う。梢恵がだろ。梢恵って好きなものをあとに取っておくタイプだよね。給食みたいにドンって一皿にいくつもかのおかずが並んでたら、先に苦手なものを食べて、好きなものはあとからだろ?」
「そうかも」

子どもみたいだと笑われたようで恥ずかしく、そのままレジに行き、会計を済ませた。

来た道を歩き、ドーナツ屋まで戻る。買い求める列は10人ほど。その最後尾にふたりで並ぶ。モスグリーンのレトロなワゴン車を改造した移動販売車だ。前に並んでいた同じ年代の女性らは可愛いバスだよねと話している。車体の屋根からは赤白のひさしが伸び、日陰を作る。車体の横には大きな窓が開き、そこから店員さんがドーナツの受け渡しをしている。黒く丸い眼鏡をかけた背高のっぽの男性だった。黒のシャツにモスグリーンのエプロンだったが、ひさしの色合いからしてウォーリーにも見えてしまう。私と同じことを感じたのか前の女性もウォーリーみたいと笑っている。

最前列に並んでいた客らが白い紙に包まれたドーナツを手にし、かじりながら歩いて離れていく。どんどん前に進み、目の前にはウォーリーになった。ウォーリーの前のカウンターにはドーナツが皿に並んでいる。チョコやナッツでトッピングされたデコレーションドーナツだ。ドーナツは渦巻き状で穴がない。ロリポップキャンディのように棒が刺さっている。


「あ、かわいい。うずまきの形になってる」
「ほんとだ。迷うなあ」
「うん。迷うね」


迷うには理由がある。ドーナツのトッピングはどれひとつとして同じものがなかったのだ。ピンクのチョコやホワイトチョコ、ナッツもピスタチオ、アーモンドスライス、くるみとそれぞれに違う。

色とりどりの丸い輪はまるで宝石箱のようだ。目移りしてしまう。でも早く決めないと後ろの人も待っているし。梢恵はそう思い、一番目を惹いた水色のアイシングがたっぷりかかったドーナツを指さした。博人はその隣のシナモンシュガーのそれにした。ウォーリーはただただ微笑んでそれぞれをワックスぺーパーに入れる。

お代は博人が払い、ドーナツを受け取るとふたりは後ろの人に場所を譲る。
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