あったか☆ドーナッツ
「……私の実家、貧乏なの」
「ああ」
「平屋の借家で雨漏りもして。父はいないし母も定職にはついてるけど収入も少なくて」
「ああ」
「ほんとうに驚かない?」
「ああ。金持ちの家で育ってわがまま放題の娘よりすっといいだろ。梢恵は梢恵の足できっちりと歩んできたんだから。食べ終えたら行こう。日が暮れる」


博人は涙を指でぬぐい、微笑みかける。


****

ヒビの入ったガラス戸はガムテープでところどころ留められている。フランケンシュタインの額のようだ。それをがらがらと引く。目じりにしわの増えた両親。にっこりと笑って出迎えてくれた。6畳間にはこたつ、こたつの天板の上にはお茶菓子。


「お母さん、ご……」


いいんだよ、元気ならそれでいいんだから、と母が私の言葉を制する。そのあとは博人を紹介した。会社の先輩であり、高校時代の先輩である博人。つきあって3年になる、と。博人は畳に両手をつき、お決まりのセリフを言った。隣で正座していた私も一緒に頭を下げた。

すすり泣く声。立ち上がったのか畳のきしむ音。押入れを開ける乾いた音。母の足音とともに現れたのは白く輝く布。それをゆっくりと見上げる。キラキラと輝くドレスだった。
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