あったか☆ドーナッツ
「梢恵はいつもおさがりだったからね。ドレスぐらい新品を用意したかったんだよ。小学校の入学式の時の笑顔が忘れられなくてね。もし梢恵が恋人を連れて帰ってきたら見せようと思ってた。どうだい? 気に入ってくれるといいんだけど……」


私は垂れ下がるドレスの裾をすくった。とろりとしたやわらかい生地、その上に重ねられたレース。母は繕い物は得意だった。でもこんなに手の込んだものを作るには時間も必要だったことだろう。


「母さん……」
「うちはこのとおり貧乏だからね、梢恵が結婚する時も大きなことはしてやれない。でもドレスなら生地さえあればできるから。梢恵が気に入ったらでいいんだよ。無理に」
「気に入らないはずがないじゃない!」


***

1年後、私たちは式を挙げた。決して大きくはない、結婚式場。母も弟も親族も呼んでささやかな式を挙げた。手縫いの純白のドレスに身を包み、私は胸を張ってバージンロードを歩いた。



(終わり)





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