あったか☆ドーナッツ
話していたのは俊平くんとは別のグループのやつらだ。モモネというのは父親が地元でも幅を利かせている会社の社長で、モモネは一人娘だ。つまり社長令嬢で、服は海外ブランド製で、ランドセルも白地にピンクのステッチという特注品だ。そういうと大和撫子みたいなおしとやかな日本人形を思い浮かべるけど、実際はズバズバものをいうはっきりした女の子だ。給食当番だった俊平が男子にはおかずを多めによそって、女子には少なめにしたとき、意見したのがモモネだった。同じ金額を払っているんだから同じ量にすべきだ、とたてついたくらいだ。俊平は、金持ちのくせにせこいこと言うな!、と応戦したけど、それは差別発言だから弁護士をつかって訴えると言い返して、俊平を黙らせた。ぼくにしたらどっちもだっちだった。おなじ学年と言っても体の大きさは全然違うし、食べられる子と小食の子との個体差はあったし、金持ちだと指摘されて弁護士を持ち出すのもルール違反だと思ったから。でも僕は黙っていた。うまく言い返す自信がなかったし、どうせ相手にされないと思ったから。
案の定、ロングホームルームは激高した。
「はなさかじいさんがいいです」と俊平。
「赤毛のアンがいい」とモモネ。
「どっちも古くせーよ」と中立の男子。
「文句いうならほかの案をだしなさいよ」とモモネ。
司会は今日の当番だったけど、見かねた久美子先生が前に出て、やりたい劇をみんなで出し合い、投票して決めたらどうだろうと提案した。みんながそれに賛成し、先生は紙切れを回した。それにやりたい話を書いて、それを当番が席をまわって集めた。ぼくは12番目の天使というタイトルを書いた。先生は集まった紙をいちまいいちまい吟味しながら読み上げ、当番は集めた紙をもとに黒板に書いていく。舌切り雀、百万回生きた猫、妖怪ウォッチ、マッチ売りの少女……とおなじみのタイトルがならんだところでぼくの12番目の天使が上がった。12番目の天使ぃ?、知らなーい、とあちこちから声が上がる。久美子先生はポンポンと手ばたきしてみんなをいさめた。