あったか☆ドーナッツ
帰りの会も終わって、下校になる。3年生以下の下級生たちは一列になって集団下校をするけど、ぼくたち4年生はそれぞれに下校していいことになっている。野球やサッカーをやっているクラスメートは練習に遅れないようにと、急いで教科書をランドセルに詰め込むと乱暴に背負って教室を駆け出していく。何も習い事をしてないぼくはゆっくりと立ち上がって廊下に出た。目の前にモモネたちの女子集団がいて、ぺちゃぺちゃとおしゃべりに興じながらだらだらと歩いていた。彼女たちは廊下いっぱいに広がっていたから追い抜くこともできなかった。別に用事があるわけじゃないし、と後ろをついていった。


「12番目の天使って、誰が推薦したんだろうね」とリーダー格のモモネが言った。
「名前は書かなかったから誰だかわかんないよね」と隣の女の子。
「たぶん、男子だと思う」
「なんで?」
「字が汚かったから」と当番だった女の子。
「だよねー。野球の話なら俊平と書きそうじゃん」


あるあるー、と、とりまきが声をそろえて言った。


「でも、うすかったんだ、その字。俊平は汚いうえに濃く書くから線がにじむじゃん? でもあの字は細かったんだ」
「俊平はいまだに2Bだもんね。じゃあ違う男子?」


ぼくはぎくりとした。12番目の天使をぼくが挙げたと知ったら女子にねちねち言われそうだ。だって女子はお姫様かアイドルグループが出てくる劇をやりたかったに違いない。ぼくは歩く速度を緩めて気配を消すことに努めた。ふいにモモネが足を止め、振り返った。ぎろり、とぼくを睨む。


「まさかアンタ?」
「う……ううん」


後ずさりして答えると、モモネは再び前を見て歩きはじめた。ぼくは胸をなでおろした。女子たちは、嘉右衛門町の通りにドーナツ屋さんできたじゃん、あれを食べると願いがかなうって話だよ、みんなでいこう、と話題を変えて盛り上がっていた。
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