あったか☆ドーナッツ
***
どんよりとした寒空を見上げて、そろそろ潮時なのかな、と思った。柳が揺れる川沿いの遊歩道、手をつないで歩く私たちは誰が見てもラブラブのカップルだ、と客観視した。不動産屋の前で足を止めて広告を見やる博人は、いまは建売でもこんなに安いんだね、と独り言のように言う。中にいた白黒の市松模様のベストを着た女性店員がガラス越しにちらちらと博人を見ている。30代になったばかりの男性は家を売る不動産屋には上客。店員の視線にも気づかない博人は、一戸建てもマンションもこの辺りは豊富なんだね、と再びつぶやいた。返事をしたくなくて、私は俯いた。
付き合って3年になる。同じ会社に勤める先輩の博人は大学は違ったが出身高校は同じだった。校舎が違ったので互いのことは知らなかったが、忘年会で隣になって同郷であることを初めて知った。
「先輩、早くいかないと売り切れちゃいます」
「新築のマンションが?」
「違います。消しゴムはんこです」
「そうだった。急ごうか」
博人の手に引かれて私も歩き出した。恋人の手は温かい。でも逆にそれがつらかった。この手を離すタイミングをずっと逃してきた。今日こそは、今日こそはと思うのだが、ずるずると今日までやってきた。
どんよりとした寒空を見上げて、そろそろ潮時なのかな、と思った。柳が揺れる川沿いの遊歩道、手をつないで歩く私たちは誰が見てもラブラブのカップルだ、と客観視した。不動産屋の前で足を止めて広告を見やる博人は、いまは建売でもこんなに安いんだね、と独り言のように言う。中にいた白黒の市松模様のベストを着た女性店員がガラス越しにちらちらと博人を見ている。30代になったばかりの男性は家を売る不動産屋には上客。店員の視線にも気づかない博人は、一戸建てもマンションもこの辺りは豊富なんだね、と再びつぶやいた。返事をしたくなくて、私は俯いた。
付き合って3年になる。同じ会社に勤める先輩の博人は大学は違ったが出身高校は同じだった。校舎が違ったので互いのことは知らなかったが、忘年会で隣になって同郷であることを初めて知った。
「先輩、早くいかないと売り切れちゃいます」
「新築のマンションが?」
「違います。消しゴムはんこです」
「そうだった。急ごうか」
博人の手に引かれて私も歩き出した。恋人の手は温かい。でも逆にそれがつらかった。この手を離すタイミングをずっと逃してきた。今日こそは、今日こそはと思うのだが、ずるずると今日までやってきた。