あったか☆ドーナッツ
古い平屋は大雨が降れば天井からも雨が降ってきた。学校ではお古のランドセルを笑われた。算数セットも筆箱もすべて佳苗のおさがりものだった。廊下に出ると、教室から「なんかさ、汚い」「臭いよね」という声が聞こえた。先生がいけませんと陰口を叩く女子を叱る声も聞こえた。私は汚くないと抗ったのも保育園までだった。水道代とガス代を節約するため家では入浴は一日おきだった。よその家では毎日風呂に入ることを知った私は汚いと言われても否定することができなかった。

自分がマイノリティにいることを知ると、授業での発言も休み時間におしゃべりを楽しむこともできなかった。ぽつんと席に座り机の上の消しゴムを立てたり倒したりしていた。

こんな惨めな思いをするのはなぜか。両親が中卒だからだ。中学生になるとそんなことを認識できるようになった。母親も年収は200万に乗るかどうか、ワーキングプアに近い状況だった。

だから必ず大学を目指す、そして手に職をつける。それが貧乏から抜け出す切り札だ。そう言い聞かせて勉強に励んできた。いい成績を取ることで、汚いとののしったクラスメートを見返してやった。高校は公立の中でもトップクラスのところに入学できた。成績優秀者にのみに支給される返済免除の奨学金も受けることができた。制服や学校指定のカバン、自転車などは佳苗からおさがりをいただいた。クラスメートの真新しい服も靴もカバンもうらやましかった。でも毎日くたくたになるまで働いてくる母親に面と向かって愚痴をこぼすことはできなかった。心の中で親をののしりながらも。

——頭が悪いから、高校も卒業できなくて大人になってから苦労している。百歩譲って頭が悪いのは遺伝で仕方のないことかもしれない。でも学校の勉強をきちんとやってこなかった。頑張ってモノを覚えようとしなかった。その努力が欠如していたからこそ貧乏なのだ。私はそんな大人になりたくはない。
< 6 / 45 >

この作品をシェア

pagetop