ネコと上手に付き合う方法
ライブも終わりに近付くと、突然ボーカルの武志が
「えー今日は、私事ではございますが、おれの…このバンドメンバーの大切な親友の誕生日です。勝手ながら、そいつをお祝いしたいと思います。」
そう言うと、いきなりバースデーソングが鳴り響いた。
照明は勝手に俺を照らし、係の人が俺を壇上にあげる。
ここにいる人達にとって俺って、赤の他人なんだけど…
「俊、おめでとう。」
ケーキが運ばれて、俺がろうそくの火を消すよう促される。
渋々消すと、大翔からA4サイズの封筒を渡された。
開けて一枚の紙を取り出すと、
「お前ら、これ…!!」
武志はニッと笑うと、マイクを持った。
「突然ですが、ここでもうひとつ。皆さんに重大発表があります。我々“ -agogue”はこの度―」
息を呑む観衆。
「メジャーデビューすることが決まりました!!」
刹那の静寂のあとに沸き上がる歓声。
俺の手には、大手レコード会社との契約書があった。
自分のことのように歓び、メンバー一人一人とハグや握手を交わすと、武志は続けた。
「しかし、みなさんご存知の通り、このバンドには未だ正ボーカルがいません。」
……は?
武志はマイクを下げると、俺に向き合った。
「俊、これが最後の勧誘だ。-agogueのボーカルになってくれ。」
「ま、待ってくれよ!だってこれは、今までのお前達の努力だろ?俺が入ったら…」
「この間お前と一緒にやった一曲が決め手になったんだ。お前のおかげなんだよ。」
「嘘…だろ?」
他のメンバーを見渡すと、みんなうんうんと頷く。
「でも俺・・・」
考えさせてくれ。と言おうとしたところに、大翔が口を挟んだ。
「じゃあ、おれが一曲弾き終わるまでに答え出せよ。」
大翔が向かった先は、キーボードではなくグランドピアノの前。
もしかしてお前ら、このためにこの会場を…?