役立たず姫の一生〜永遠の誓いを貴女に〜
「ねぇ、アゼル。 あの若草色の植物は何? 王宮では見たことなかったわ」

俺の日課である朝の散歩にくっついてきたエレーナが屋敷の裏手にびっしりと植えられたマンダナの葉を指差して尋ねた。

「あれはマンダナという植物です。
葉の部分を煮出すと、火傷や切り傷によく効く薬になるので、どこの家にも植えられています。
まぁ、所詮は民間薬なのでお抱え医師のいる王宮では必要ないでしょう」

俺はエレーナを近くまで連れていき、マンダナの葉を一枚摘んで彼女に手渡してやった。

「なるほど、薬になるのね。
どこの家でも育てられるということは、生命力の強い植物なのね」


「あぁ、確かにそうですね。マンダナは枯れた土地や日の当たらない場所にも群生しますから」

エレーナは興味深そうにマンダナの葉を光に透かしたり、匂いを嗅いだりしている。

一体、何が面白いのだろうか。


動きやすいからと庶民が着るような木綿のドレスに身を包み、長い髪をすっきりと一つに結い上げたエレーナはもはや王女には見えなかった。
出入りの商人などは彼女をうちの下働きの娘だと思っているに違いない。


近頃のエレーナは言葉を覚えたばかりの子供のように、目にするもの、耳にするもの全てに何故?と問いかけてくる。

王宮で見聞きしていたものとはあまりにも違う貧乏貴族の文化や習慣が面白いのかも知れない。


面倒だなと思いつつも、俺は全ての質問に根気よく付き合ってやっていた。


くだらない質問も多かったけど、時々はっとするような問いを投げかけてくるのが面白かったからだ。
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