役立たず姫の一生〜永遠の誓いを貴女に〜
「ところで、テオ。 今日は指揮官殿はどちらに?」

ざっと見渡した限りでは兄の姿は見当たらなかった。
どうか外出していますようにと心の中で祈ったが、その願いは聞き入れられなかったようだ。


「カイル様なら執務室にいらっしゃると思うが・・・声をかけてこようか?」

「いらっしゃるのか。いや、こちらから出向くからいい」

落胆する気持ちを隠し切れず、思わず溜息が出てしまう。

カイル兄上に会うのはどのくらいぶりだったか。


「アゼル」

背中ごしに鋭い声が飛んできた。
振り返って確認するまでもない。

「これはこれは、カイル兄上。ご健勝そうで何よりです」

精一杯の笑顔を作ってそう言ったにもかかわらず、冷たい黒い瞳が俺を睨みつける。
テオほどではないが背が高く、一目で軍人とわかる筋肉質な身体。

右頬の大きな刀傷が整った顔立ちに凄みを与えている。

「アゼル。王女殿下を伴っているにも関わらず、このような場所で無駄話をしているとは何のつもりだ?
着いたら、執務室にくるよう言ってあった筈だが」

延々と続きそうなお説教を右から左にと聞き流す。

剣の腕前はともかく、こんなに融通の利かない男が指揮官で我がティーザ軍は大丈夫なのだろうか。
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