役立たず姫の一生〜永遠の誓いを貴女に〜
「わぁ、すごい。 下に市場が見えるわ。 あ、あっちに湖がある」

軍の営所にはティーザ領内を一望できる見張り台と呼ばれる場所がある。
今日のように天気が良ければ、はるか向こうのザワン湖までも見渡すことができた。

エレーナは長い髪が風に煽られることも気に留めず、身を乗り出すようにして眼下の景色を眺めていた。


「俺のこの髪と瞳はこの国ではとても目立つでしょう?」

俺は独り言のようにぽつりと呟いた。


「そうねぇ。 アゼルのような美しい髪と瞳を持つ者を他には知らないわ」

美しいなんて飽きるほどに言われてきた俺だけど、エレーナに褒められるのはなぜだか妙に嬉しかった。
彼女の言葉からは打算や媚を感じないからだろうか。

「北方の、おそらくジュート王国よりもっと北の民族の血です。俺の実の母は異民族なんです」


このキトニア王国の民には俺のような色素の薄い髪を持つ者はいない。

「今は父と呼んでいるティーザ候は本当は叔父です。幼い頃に両親を亡くした俺を引き取って、息子として育ててくれました」

叔父であるハウルにも感謝しているが、何より血の繋がらない異民の容姿を持つ子供を息子として受け入れてくれたサラには頭が上がらない。


「この見た目で、ただでさえ目立ちますからねぇ。 これ以上は出しゃばらないのが自身の為かと思いまして。
幸いなことに、ミハイル兄上は学業に優れ、カイル兄上は武芸に秀でてましたから。俺は何もしなくとも、ティーザ家は安泰です」

俺は苦笑いを浮かべてそう言った。
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