役立たず姫の一生〜永遠の誓いを貴女に〜
本人も認めている通り、エレーナは非常に庶民的な容貌の持ち主なので街に出ても悪目立ちすることはない。

そもそも、役立たず姫の噂は知っていても、エレーナ王女の顔を知る者はこんな田舎にはまずいないだろう。


問題は俺の方だな。


「まぁ、アゼル。 とってもよく似合ってるわ」

エレーナは俺の姿を見るなり、クスクスと笑った。

「今日の役どころは裕福なマダムとお付きの娘といったところですね」

俺は身体のラインを覆い隠すゆったりのした濃紺のドレスを身につけ、同じ生地のヴェールで髪をすっぽりと包んだ。

髪の毛さえ隠してしまえば、誰も俺とは気づかないだろう。

ちなみにドレスは母上のを拝借させてもらった。

「かしこまりました、奥様」

エレーナはそう言って、侍女が主人にするようにお辞儀をしてみせた。


エレーナの希望通り、ティーザ領では一番大きなギザの街に出ることにした。

ティーザ領は田舎だが、交易の要に位置している関係で商業が盛んだった。

キトニア王国の南にある大国サレフからは高価な絹の衣類や宝石が、海の向こうの島国シーアからは珍しい果物や香辛料が運ばれてくる。

ギザの街の市場はそれらの品物が所狭しと並べられている。
屋台や食堂も数え切れないほど存在する。
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