役立たず姫の一生〜永遠の誓いを貴女に〜
俺もテオも18歳、この国では一人前の男として扱われる年齢になった。

俺は随分と背が伸び筋力がついたし、テオはますます大男へと成長していた。

テオには婚約者ができて、今秋には結婚する予定だ。


「こんなに鍛えたのに、やっぱり軍には入らないのか?」

「まぁ・・今のところは考えてない」

俺は剣を弄びながら答えた。
別に軍人になりたくて、剣の腕を磨いたわけじゃない。

「王女との結婚は? まだ話が進まないのか?」

王女ーー花がほころぶようなエレーナの笑顔が目に浮かんだ。

エレーナももう16歳だ。
相変わらず庶民的な容貌ではあるが、初めて会った時よりいくらか女らしくなったように思う。

生来の怠け者だった俺を変えたのは彼女だ。初めはエレーナに付き合っていただけだった。 それがいつしか・・・
すごい、すごいと無邪気に褒めてくれる彼女の笑顔が見たくて、俺は大嫌いだった筈の剣の稽古にうちこむようになっていた。

今思うと、エレーナにうまく乗せられたのかも知れない。


それから、驚くべきことに、ミハイル兄上やカイル兄上に対する対抗心のようなものも芽生えはじめていた。

異民の血をひくというどうにもならない部分は仕方ないにしても、それ以外の点では負けたくないと思うようになった。

我ながら子供だと思うが、彼女の眼差しを独り占めしたいというただそれだけの理由で。

だけど、たとえ俺が兄上達より有能な男になったところで・・・どうにもならない現実があった。


「最近は反王妃派の貴族達がこぞって反対している。 王位継承権を持つ大切な王女の結婚をそう簡単には決められないとの事だ」

俺は淡々とテオに説明を始める。

反対されている事に憤りはない。

俺と彼女では身分の釣り合いが取れないことは最初からわかっていた事だ。

王女殿下の婚約者。 初めから掴みどころのない夢のような話だったのだ。

すぐ側にいるようで、実は遠い。
きっと触れればすぐに消えてしまうのだろう。俺にとってエレーナはそういう存在だった。
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