役立たず姫の一生〜永遠の誓いを貴女に〜
ーーせめて、もう少しまともな品をプレゼントし直しましょうか?


俺はそう言いかけて、はたと口を噤んだ。

気がついてしまったから。

あの頃のように無邪気にエレーナにプレゼントを贈ることなど、もう出来ない。

自分の瞳と同じ色の宝石を選ぶなんて、とても無理だ。

俺がどんな品物を贈ったとしても、エレーナはきっと喜んでくれるだろう。

だけど、俺は、

彼女の笑顔に特別な意味を期待してしまうだろう。


「どうかした、アゼル?」

「いえ、何でも」

心の内を見透かされるのを恐れて、俺はそっと目を伏せた。


深い意味など何も持たない、この安物のブローチで十分だ。
そう自分に言い聞かせた。


「ねぇ、アゼル。一つ聞いていい?」

「何ですか」

「アゼルは神を、キトニア神を信じてる?」

エレーナは眼下に広がるティーザの小さな街を見つめながら、俺に問う。

「また可笑しなことを。 この国の民はみな、キトニア国教会の信徒でしょう」

「それは形式的なものでしょう。アゼル個人の信仰を聞いてるのよ」

「・・・信じていますよ。 幽霊や悪魔、妖精の存在と同程度には」

「よくわかったわ。 ちっとも信じてないってことね」

エレーナは呆れた目で俺を見て、ふっと微笑んだ。

「う〜ん。そもそもキトニア神は俺を救ってくれないですからねぇ。
どんなに縋っても、永遠に片思いですから」

キトニア神はキトニア王国固有の宗教だ。よって、異民族の血が混ざる俺は厳格な教義では神の手の及ばないところにいる。
仮にも貴族の子弟なので表立った迫害は受けないが、熱心な信徒からすれば俺は異端なのだ。
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