役立たず姫の一生〜永遠の誓いを貴女に〜
「そうなのよね。 アゼルだけじゃなく、他民族の血を引く者はこの国にたくさんいるわ。みなキトニアの国民なのに、キトニア神が平等でないのは可笑しいと思うのよ」

エレーナは真剣な目をしていた。
俺は何も言い返さなかった。

「いま、子供じみた綺麗事を・・・って思ったでしょ?」

エレーナはくるりと俺の方に顔を向けると、ふんと鼻を鳴らした。

清々しいほどにピタリと当てられてしまったので、俺は正直に認めた。

「思いました。 王女様らしい優しい考えだな・・・と」

「残念ながら、私はそんな風な清らかで優しいお姫様じゃないわ。
異民族が可哀想なんて思わない。
だって、異民だろうがキトニア国民だろうが人間はそもそも平等じゃないし、神も悪魔も誰のことも救いやしない。

では何故、宗教がどこの国にも根強いているのか?」

答えは簡単ーーとエレーナは唄うように言った。

「権力者が国をまとめるのに都合がいいからよ。宗教は人心掌握に便利な道具なの。ならば、とことん便利にすべく改良していくべきだと思わない?

キトニア国教会の現在の教義は、排他的で民の間に諍いを生むわ。改良すべきだと思う」


俺は思わず声をあげて笑い出しそうになった。
もし、ランス公がアンヌ王妃よりエレーナの方が扱いやすいだろうとちらりとでも考えているのなら、大きな間違いだ。




エレーナの為政者としての資質ーー。

本当は初めて会った時から気が付いていた。

エレーナは君主の目と耳を持っている。
国を統べる人間として、物を考える。

彼女の身体を流れる血は本物だった。

だからこそ、アンヌ王妃も恐れているのだろう。


エレーナの頭上に相応しいのは、軽やかな白い花冠ではなく、ずっしりと重い黄金の冠・・・


わかっている。

わかっているからこそ、願わずにはいられなかったんだ。


どうかこのまま、役立たず姫のままで。


王族に生まれた責務など全て忘れて、俺だけの花嫁にーーー。
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