役立たず姫の一生〜永遠の誓いを貴女に〜
「ねぇ‥‥もうひとつ、聞いてもいいかしら?」
「どうぞ、なんなりと」
俺が答えると、エレーナの瞳が戸惑うように揺れた。次の言葉を発するべきか否かを迷っているようだった。彼女らしくないなと思ったが、俺はなにも言わなかった。少しの沈黙の後、意を決したようにエレーナは顔を上げた。
「あのねっ。私が婚約者になるって聞いたとき、どう思った⁉︎ 正直に教えて欲しいの」
ずいぶんと予想外の質問だったけれど、エレーナがあんまり真剣な顔をするので俺も正直に答えることにした。
「では、正直に言わせてもらいますね。厄介だな、面倒くさいなって思いました。カイル兄上と結婚すればよいのにとも思いましたね」
「うっ。本当に正直ね‥‥」
「で、実際にあなたに会ってみたらもっと厄介でした」
しゅんとして下を向いてしまったエレーナの顔をそっとのぞきこむ。つぶらな瞳も、丸い頬も、つんと尖った小さな唇も、俺にはたまらなく魅力的でなによりも愛しい。
ふいにわきあがった衝動のままに、俺はエレーナの柔らかい体を抱き締めた。
「‥‥本気で自分のものにしたくなりました。兄上にもこのキトニア国にさえも、あなたを渡したくない。これ以上ないほどに厄介な存在です」
俺の腕の中でエレーナはとても幸福そうに、とても寂しそうに、微笑んだ。その瞬間の彼女は手を離したら消えてしまいそうに儚げに見えた。
「ふふっ。さすがね、アゼル。ありがとう。まるで恋物語のヒロインになったみたいだったわ。嘘でも‥‥嬉しかった」
「どういたしまして。俺でよければ、いつでもヒーロー役を引き受けますよ」
嘘でも冗談でもないことは、俺もエレーナもわかっている。本当は言葉なんて要らないのだ。こうやって抱き合っていれば、互いの気持ちなど簡単に伝わるのだから。
俺は長いことエレーナを離さなかった。
エレーナもまた、俺の背中に回した手を離すことはなかった。
人生で最も幸せで、最も不幸な時間だった。
「どうぞ、なんなりと」
俺が答えると、エレーナの瞳が戸惑うように揺れた。次の言葉を発するべきか否かを迷っているようだった。彼女らしくないなと思ったが、俺はなにも言わなかった。少しの沈黙の後、意を決したようにエレーナは顔を上げた。
「あのねっ。私が婚約者になるって聞いたとき、どう思った⁉︎ 正直に教えて欲しいの」
ずいぶんと予想外の質問だったけれど、エレーナがあんまり真剣な顔をするので俺も正直に答えることにした。
「では、正直に言わせてもらいますね。厄介だな、面倒くさいなって思いました。カイル兄上と結婚すればよいのにとも思いましたね」
「うっ。本当に正直ね‥‥」
「で、実際にあなたに会ってみたらもっと厄介でした」
しゅんとして下を向いてしまったエレーナの顔をそっとのぞきこむ。つぶらな瞳も、丸い頬も、つんと尖った小さな唇も、俺にはたまらなく魅力的でなによりも愛しい。
ふいにわきあがった衝動のままに、俺はエレーナの柔らかい体を抱き締めた。
「‥‥本気で自分のものにしたくなりました。兄上にもこのキトニア国にさえも、あなたを渡したくない。これ以上ないほどに厄介な存在です」
俺の腕の中でエレーナはとても幸福そうに、とても寂しそうに、微笑んだ。その瞬間の彼女は手を離したら消えてしまいそうに儚げに見えた。
「ふふっ。さすがね、アゼル。ありがとう。まるで恋物語のヒロインになったみたいだったわ。嘘でも‥‥嬉しかった」
「どういたしまして。俺でよければ、いつでもヒーロー役を引き受けますよ」
嘘でも冗談でもないことは、俺もエレーナもわかっている。本当は言葉なんて要らないのだ。こうやって抱き合っていれば、互いの気持ちなど簡単に伝わるのだから。
俺は長いことエレーナを離さなかった。
エレーナもまた、俺の背中に回した手を離すことはなかった。
人生で最も幸せで、最も不幸な時間だった。