役立たず姫の一生〜永遠の誓いを貴女に〜
その日の夜更け。

大地を叩きつけるようにザーザーと降り続く雨の中、王宮からティーザ城に早馬がやってきた。

ずぶ濡れの使者に母のサラは乾いた布と温かいお茶を差し出したが、彼はそれらを受け取る前に話し出した。


「申し上げます。伝令はエレーナ王女殿下へ・・・」

その声は地を這うように暗く、絶望的に響いた。


「国王陛下の容態が悪化。至急、王宮に戻られますように とのこと」


覚悟はあったとはいえ、父ハウルも兄達も俺も少なからず動揺しすぐには言葉が出てこなかった。
そんななかで、一番冷静だったのはエレーナ本人だった。


「承知しました。 すぐに王宮に参ります」

エレーナはしっかりと前を見据えて、静かにそう言った。
そして、使者にご苦労様と声をかけ土砂降りの雨の中、馬を走らせてきた彼の労をねぎらった。


エレーナの言葉に後押しされ、ハウルとサラも慌ただしく動き出した。
いくらエレーナが乗馬が得意とは言え、公式に王宮に向かうとなれば馬車の用意が必要だ。


バタバタと走り回る城の者達のなか、俺だけが呆然とその場に立ち尽くしていた。

とうとうこの瞬間が来てしまった。


「アゼル」

俺を呼ぶ柔らかな声。ゆっくりと振り返ると、その瞬間、まるで時が止まったかのように視線が交錯した。

俺はエレーナを見つめ、エレーナもまた俺を見つめていた。


彼女は今、何を思うのだろう。


そして、俺はその答えを知りたいのか知りたくないのか・・・。


胸の奥がチリチリと焼けるように痛み、ひどく喉が渇いていた。


「アゼル、貴方も一緒に来て。私の婚約者として同行しなさい」


そう言ったエレーナの顔は、もう俺の知っている彼女じゃなかった。王位継承権を持つ一国の王女の顔だった。
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