海 に 溶 け る 。
遠くへ
男はあたしを車に乗せて、国道を走らせる。
助手席に座ったあたしは“コイツどこに連れていく気なんだろう”と、さして期待もしないで移り変わる景色をぼんやり眺めている。
「君、名前なんて言うの?」
「未央」
「未央か。うん。いい名前だね」
「どこが?」
「適当に言ってみた」
「はぁ?!」
拍子抜けして睨むように男を見ると、楽しそうに運転している。
よく分からない。
つかみ所のないヤツだ。
「あんたは何て名前なの?」
普段、誰かの名前なんて気にもしなかったけれど
このおかしなヤツの名前だけはなんとなく知りたくなった。
「俺?直」
「ナオ?」
「そう。ミオとナオって似てるよなー」
「あたしの名前パクってんじゃねーよ」
「パクってねーよ」
直の笑った顔は子犬みたいだった。
ふと見た、サイドミラーに映る自分の口元が久しぶりに緩んでいるのに気付いた。