話をしよう。
珈琲一杯分の



「ちょっと話さない?」


そう言ったのは、2つ下の弟、啓太だった。


話したのは久しく前だった気がする。私が就職と同時に実家をでてから、2年後に啓太も家を出て、以来私が実家に顔を出しても、啓太と会うことはほとんどなかった。

今夜は、久しぶりの家族全員の食卓で、喜んだお父さんはお酒を飲み過ぎて、お母さんに支えられながら、寝室へいった。


「そうだね」

と一言返せば、啓太は軽く頷いて、冷蔵庫へ向かった。

「何か飲む?」

「んー、じゃあ珈琲、お願い」

「わかった」


そう言って、少し経つとマグカップを両手にひとつずつ持って、リビングに戻ってきた。そして、薄いピンクのカップを私にそっと渡してくれる。

「ありがとう」

すると"ん"と短く返す啓太の持つ、薄い緑のカップからそっと見えたのは、私と同じ珈琲だった。

「...珈琲...飲めるようになったの?」

「まぁね」

そう言って、ソファに腰掛けると、啓太はカップに口をつけた。

「前は苦いって、飲めなかったのに」

「...いつの話だよ、今じゃ毎日飲んでるよ」

そう言って、啓太はクスクスと笑った。




< 1 / 7 >

この作品をシェア

pagetop