青の哀しみ
彼、八広浩太のマンションの近くには、多摩川があった。

そして毎朝7時半にこの多摩川の土手にキノを連れてくるのが日課だった。

二週間前まではここは知らない土地だった。実は言うと、私には今でもここがどこだか良く分かっていない。

東京の23区ではないことはわかる。どこか田舎っぽくて、私の知っている新宿や渋谷だとかの、ごちゃごちゃとしている東京とは違っている。

まぁここがどこだろうがそんなことはどうでもいい。

キノがこの土手をとても好きなのだから、そんなことは私にはどうでもいいことなのだ。

草むらを分け入って歩いているキノの姿に、あぁ、蚤がつくなと思ったけど、フロントラインという蚤よけの薬をつけたので平気だろう。

キノは6月に入って少し暑いのに参ったのか、はぁはぁと口を開けながらもひたすら進んでいった。

その姿は散歩というよりも、何かの訓練のようで、まるで優雅ではない。

コーギーは太りやすいというが、キノはというと痩せっぽっちで体も小さめで、どこか頼りなくて、こういうときは少し心配にもなる。

たまに散歩している途中に人に話しかけられると、決まってまだ子供かと聞かれるほどだが、本当はもう五歳にもなる、人間で言えば立派な熟女であるのだ。

そんな痩せっぽっちの体は、私のせいでもあるので、そう言われると少し胸が痛んだ。

 
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