青の哀しみ
カラスの鳴く声が響いた。鳥が小さな群れをなしてどこかに帰っていく。

先ほど驚いて私たちを見ていた男の子が、母親の手を握って帰っていく。

母親は元気な子どもにどこかうんざりした顔をしながら、それでも優しい目で笑った。

シチューの匂いが鼻腔をかすめた。どこかからか柔らかな笑い声が響いてくる。

まだ肌寒い4月の夕暮れに、私は体を震わせ、ふいに涙がこぼれそうになったのをこらえた。

叫びたかった。我慢をしようとしたが、何をどう我慢していいのかもわからなかった。

だから叫んだ。言葉なのか、それともただの音なのかわからぬものを叫んだ。

誰かが見たかもしれない。だけどそんなことどうでもいい。

帰りたいと思った。暖かい場所に帰りたい。帰るべき場所に帰りたい。

しかしそれと同時に、壊れてしまえとも思った。

帰るべき場所など壊れてしまえ。そんなもの私にはいらない。

キノは叫んだ私を見て少しおびえていた。それに優しく笑いかけると、その頭を撫でた。

そうするとキノはすぐに嬉しそうに笑って、腹を見せてきた。その腹を撫でながら私は、あぁ、幸せだと思った。

キノの顔を見ると暖かい気分になる。多分これが幸せというものなのだ。それなのに、いや、それだからなのか、私は悲しみに勝てずにキノの存在を忘れていた。

そう思って、暗闇が落ちて来る中で、機械のようにキノの腹を撫で続けた。

キノは気持ちよさそうに眠りに落ちていった。



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