イタミ
「前野さん?」
私が保健室に入ると、神崎さんが振り向いて、驚いた顔をした。
私が来るとは全く予想していなかっただろう。
神崎さんは私が話すまで待っていてくれる。
「えと…神崎さんのカバン、持ってきたの。」
「そーなんだ…。ありがとう。」
神崎さんはそう言って立ち上がろうとした。
「あ、無理しないで。」
私はそう言って神崎さんに椅子に座ってもらう。
神崎さんのカバンを机の上に置いたら、神崎さんと目が合う。
神崎さんの体を見てみると、体操服のままで、膝や肘には大きな絆創膏が貼ってある。
右の足首は包帯で固定してあった。
体育の時には気づかなかったけど、顔も擦りむいていたようで、
あごと耳の間のところに絆創膏が貼ってあった。
すごく痛そうにみえる。
「なんか手当してもらったら大げさになっちゃって…。」
神崎さんは私の視線に気づいたみたいで、笑顔でそう言った。
そうやって笑う神崎さんの笑顔がどこかさみしくて、儚く見えた。
見ている私の胸が苦しくなるような感じ。
それに、前話した時よりもどこかビクビクしているような感じがする。
美山さんたちに接する時の態度が染み付いているのだろうか。
「けが。…足大丈夫?」
私は神崎さんに気になっていたことを聞く。
「保健の先生はくじいただけだと思う。って言ってた。」
神崎さんは前うちに来てくれた時みたいなゆったりとした話し方で話してくれた。
「そっか。無理しないでね。
…明日から学校どうやって来るの?」
「うーん。それをね、さっき考えてたんだ。
うち母子家庭でね、
お母さん朝早くから働いてるからたぶんおくってもらえないとおもうの。
やっぱケンケンかなぁ?」
神崎さんは笑いながら話す。今のはなんだか昔の笑い方みたいだった。
ちょっとうれしい。
でも、何でこんなに強いんだろう。笑って話せるだろう。責めないんだろう。
神崎さんが怪我したの、美山さんのせいなのに。
でも、そのことは口に出さないことにした。
神崎さんが言わないようにしてることを、私が言ってはいけない気がした。
あっ!そうだ。
神崎さんの通学のことで思いついた。