指先からwas唇からlove【再公開】
時間差で教室に戻ったつもりだったけど、席に着いた海也と私を、クラスの女子が疑いの眼差しで見ているのに気が付いた。
「ね、さっき階段のところで掃除してなかった?」
早速、海也に近寄り探りを入れている。
「あー……、牛乳こぼしたから」
海也はその女子の方を見ないで答えてたけど、
「緒先さんがこぼして拭かせてたんじゃないの?」
意味深な彼女らの発言に思わず振り向いてた。
「なんでそうなるんだよ?」
「え、だって緒先さんて男使うの上手いじゃん!」
「意味わかんねー」
「あ、海也休みだったから知らないか!」
「なにを?」
「この前の音楽の時間、渡辺くんが緒先さんのリコーダー舐めちゃって、それを一ノ瀬くんが洗ってあげてたんだよ、泣いてないで自分で洗えばいいのにさぁ」
こっちまで聞こえてきた余計な報告。
何で、誰一人いい気持ちしないこと、いちいち話すの?
海也が、
「はっ?」
と、不機嫌な声を出して私の方を見ていた。
自然と指が前髪を引っ張って、見られないように目を隠す。
「渡辺、どこ行った?」
怒った海也の低い声が、早くも秘密を秘密じゃなくしていた。