指先からwas唇からlove【再公開】
海也は、そのあと何も言わずに教室を出ていく。
後を追いたかったのに、周りの視線が気になってそれも出来なかった。
「……すぐに逃げるんだ、アイツ」
一ノ瀬くんもまだ言い足りない顔をして席に着いた。
「一ノ瀬くん、言い過ぎだよ……」
確かに直ぐにカッとくるのは良くないけど、
誰かのためにムカついたり、実力以上に良く見せようとカッコつけたりするのは、悪いことじゃない。
私にはできないから、逆に凄いなって思う。
「緒先さん、始めから海也のこと気にしてたね」
一ノ瀬くんは隣で声を落として話す。
「……目立つからだよ」
まだ、一ノ瀬くんにも話せない。
「俺、もうアイツに遠慮しない」
「え?」
私たちの始まったばかりの密恋は、バレればきっと周りに傷つく人がいる。
「俺、ずっとアイツに引け目を感じてたから」
その中には大切な人もいるってこと、
「今度のマラソン大会、優勝したら二人で会ってくれん?」
海也は、感じていたのかもしれない。