指先からwas唇からlove【再公開】
優勝の可能性は殆どゼロに近かった全学年でのマラソン大会。
サッカー部はレギュラーの座がかかってたし、
陸上部も中体連選手の選考の基準にもなるらしく、本気で皆走ってるからだ。
それでも、約束を受け入れてくれた緒先の顔を思い出せば、足は自然と軽くなった。
「あっちに人目つかない喫煙所にいいとこあるぞ」
後方で、相変わらずやる気のない飯島達の声が聞こえたけど、振り向きもしなかった。
関わりたくね。
そう思う。
だけど、奴等をバカにしてはいない。
少し前の俺も同じだったから。
転校してきた緒先が、俺を少し変えてくれたんだ。
ーー折り返し地点、一ノ瀬達にやっぱり追い抜かれた。
当たり前の事なのに、めっちゃ悔しい。
陸上部やバスケ部の奴も俺を追い抜いていく。
もう、
無理なのかな?
諦めモードで速度をぐんと落としたその時、
海の方から、悲鳴が聞こえた。
空耳?
波の音?
猫?
本当にか細い声。
一度は、気のせいかと思ってそこは通りすぎてしまった。