指先からwas唇からlove【再公開】

「……え」


海也の方を見ると、目を開けてニヤッと笑ってた。


「……そうでもしないと、マジで殺されそうだったから」


「……ビックした……」


脱力……。


でも、大ケガしてるのには変わりはない。

「せ、先生か救急車呼んでくるよ」


涙と鼻水を拭いて、再び階段を上がろうとすると、



「行くなよ」


しっかりした声で呼び止められる。

「でも」



「一ノ瀬が多分優勝だよ……。お前は、会うの?」


え? 行くなって、そっちのこと?

こんなときに?


海也はゆっくりと起き上がって、

「あてっ……」

あばら骨の付近を押さえながら、私の手首を掴んだ。




「行くなよ」

繰り返された言葉に、私は首を横に振る。


「約束だもん、会うよ」

血のついた顔を更に切なくさせる海也の手を、今度は私が掴んで、




「そして、末信海也くんと付き合ってるって、ちゃんと言うよ。
もう三年に気を使う必要ないじゃない」



その潤んだ瞳を見つめた。



「ありがと……」



いつも、困った時に助けてくれて……。




「好きだよ……」



初めての言葉、こんなときに出るとは思わなかった。




「……約束と違うけど」



傷だらけの顔を掴んで、触れてみたいと思っていた唇に、指を乗せた。



「緒先……」



これ、合図だよ。




それに気付いた海也が、私の指を掴んで、けしてキレイではないそこに唇を這わせる。

視線が重なった瞬間、自然と瞼を閉じると、
温かな唇が、ちゃんと私の唇に重ねられてきた。



血の味は直ぐに消えて、

人間らしい匂いに包まれた口元は、

角度を変えながら、何度も触れ合った。





私達のファーストキスは、

やっぱり、

海の匂いがした。









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