指先からwas唇からlove【再公開】
「82円切手ください」
お母さんに頼まれた切手を買いに郵便局へ。
そこにも手描きの中体連のポスターが貼られていた。
巧いなあ。
四月に入って直ぐに美術の時間に描かされたな……。
これ描いてる時は、まさか海也が出るなんて思いもしなかったけど……。
今はポスターの選手が海也に見えてくるよ。
郵便局を出て近くのコンビニのまえを通ると、
「末信海也って中体連出るらしかなー」
誰かが海也の話をしてた。
思わず声の方を振り返る。
……違う学校の制服。
一つ上の飯島達を思い出してしまうような悪そうな子たちだった。
「あいつ、最近めっきり遊ばんくなった」
「中体連のせいじゃ?」
「違う、女おるから」
そんな会話が聞こえてきて、自分の他にも淋しい思いをしてる人がいるんだなって思った。
そして、また、亜美ちゃんの泣き顔を思い出して胸がチクリとする。
「アイツの女って誰だっけ?」
「生野っていう、ちっこい奴じゃ?」
だけど、やっぱり、自分のほうが可哀想に思えてた。
私達、ちゃんと付き合ってるのに、
他人から分からないほど、二人の時間が少ない。
スマホに付けたストラップを握りしめ、
もう、亜美ちゃんには同情しないって思った。