指先からwas唇からlove【再公開】
ボンヤリ歩いてたら、一ノ瀬くんとその友達に声をかけられる。

修学旅行で部屋に遊びに来たメンツだ。


「家、こっちだっけ?」


「……あ、ちがう」


いつの間にか、家とは違う学校の方向へ歩いてた……。



「相変わらずたまにボンヤリしてるね、緒先さんて」


そう言って笑って、

「後で行く、先に向かってて」


「わかったー」「あとでなー」


友達にことわって、なぜか私と一緒に歩き出した一ノ瀬くん。



「どこか行くんじゃないの?」

この人もモテるタイプだし、二人で帰ったりしたら変な噂になるとか思わないのかな?

私が気にしすぎ?



「部活が休みでそれに合わせて塾の時間が早まったんだよ」


「……あー……」



塾か。
皆、行ってるんだね。


「緒先さん塾、行ってないの?」

「うん。まだ、行きたい高校もわかんなくて目標もないから」


ただ、好きな人と一緒にいられれば良かった。

何よりもそれが大事だった。




「そうなんだ、勿体ないね。緒先さん英語得意そうだから、そっち活かせる進学校目指せばいいのに」


「得意ってわけじゃ……。ただ、わりと好きな教科というだけで」


「好きって気持ちのほうが大事だと思うけどなー、成績よりもむしろ先に繋がるはず」


「……先に」


「緒先さん、うちの塾こない? 英検のための授業も充実してるよ」


「英検……中学生で受けられるの?」

「勿論。今は英語教育の低年齢化でそれがフツーだよ。英検が将来に役立つかはわからないけど、自信には繋がるんじゃないの?」



自信……。

今、一番欲しいかも。



「ありがとう、塾のこと、詳しく教えてくれる?」



こんな話、他人としたの、一ノ瀬くんが初めてかもしれない。



八方美人だなんて、勝手にイメージ決めつけてちょっと苦手だったけど。



「うん、なんなら塾についておいでよ」

「いいの?」

「いいさ、そして資料とか貰って帰りなよ」



今は、この隔たりない爽やかさが、ありがたいかも。





「良かった、緒先さん泣いてるのかと思ったから」





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