指先からwas唇からlove【再公開】
昨日、たくさんのラインを送ってきた海也。
だけど、それに返す気力もなくなってた。
「……帰ったら直ぐに寝ちゃって」
「具合悪かったんだよな? だけど、それでも一ノ瀬と一緒に帰ってたんだろ?」
「誰に聞いたの?」
「見たやつもいるし、塾に行ってる連中みんな噂してた」
海也が怒るのは無理ない。
私が悪い。
だけど、もし、あのとき北川さんたちが居なかったら、私は海也と帰ってた。
あの人の存在が私から自信とまともな思考を奪ってくーー
「……海也は、ストラップ持ってるの?」
「は? なに転嫁してんの?」
「本当に北川さんにあげちゃったの?」
「……それ、一ノ瀬と関係あんの?」
HRが終わったベルが聞こえてきても、海也は南京錠を開けるのを諦めずに針金を押し込んでいた。
「ちゃんと答えてよ、本当にあげちゃったの?」
私は、初めてのお揃いのもので凄く嬉しかったのに。
海也は、南京錠をいじる手を止めて、
「北川がしつこかったから、めんどくさくてやったよ、別にいいじゃん。ストラップくらい」
答えるのも面倒臭そうな声を出した。
「……なに、それ……」
そんな適当だから、北川さんも勘違いするんじゃない……。
「本当にそれだけ?」
「は?」
「北川さんに下心があったから簡単にあげちゃったんじゃないの?」
「はぁぁ?!」
私はあの人みたいに大人のような体してないし、大胆さも明るさもない。
「……本当は、北川さんとしたくてしょうがないんでしょ?」
″触りたそうな目して私のこと見てる″
私の問いに顔を紅くしてしまう海也。
それを見ると、余計に自信なくなって、嫌な性格になっていく。
「……これ、もう、持ってる意味ないから」
押し付けるように、針金を持つ海也の手に、無理矢理ストラップを乗せた。
「……いくら、使い古しの針金でやったって、鍵は開かないと思うよ。
新しくなってるんだもん」