指先からwas唇からlove【再公開】
慌てて離れたけど、私と一ノ瀬くんの周りには、たくさんの塾生がいてバッチリ見られてた。
「わー、わー、緒先さんが一ノ瀬とチュしたっ!」
一番興奮した様子で騒いでいたのは渡辺くんだった。
「うるせーなっ、事故だろっ?!」
真っ赤になってそれを止めさせる一ノ瀬くん。
「もう二人付き合っちゃえば?」
北川さんは本当に愉しそうにしていた。
……悔しい。
絶対に押したのは北川さんなのに。
もう、みんなに見られるのがイヤで傘も差さずに夜道を一人歩いていく。
「緒先さんっ! 危ないから家の人呼びなよー」
一ノ瀬くんの大きな声が聞こえたけど、振り返りもせずにひたすら歩いた。
……夜の闇なんて怖くない。
お化けもチカンも、実際に見たことないから。
ーー怖いのは、身近にいる悪意のある人。