指先からwas唇からlove【再公開】
倒れ込む寸前、一瞬、意識が戻って、体育の先生が駆け寄ってくれたのが見えた。
だけど、逆上せた体は吐き気を伴って直ぐにまた私を暗闇へと誘う。
苦しくて、熱くて……。
ゆらゆらと船に乗ってるみたいで……。
他人の大きな背中におんぶされているのはわかった。
そして、落ちないように誰かが私の手を握っている感触も……。
そこから記憶は途切れて、
目覚めた時は保健室……。
少女マンガなんかでは良くあるけど、まさか自分が経験するとは思わなかった。
「緒先さん、すごい汗だったから、体操服持ってきてもらって着替え寝てる間にしちゃったからね」
保健室の養護の先生が、優しく私に声をかけてきた。
「……ありがとうございます」
枕元には、きれいに畳んだ制服が置いてあった。
「熱中症かと思ったけど、風邪みたいね。
おうちの人に電話したけど、あと二時間位しないと仕事抜けられないっておっしゃってたから、それまで寝てなさいね」
「……はい……」
「あ、枕元のスポーツドリンク飲んでいいわよ。それ、差し入れだから」
「え……誰からですか?」
「ん? 内緒にしてって言われたから言えないわ」
「内緒……」
誰だろ?
噂を気にする一ノ瀬くん?
それとも、
まだ怒ってる槇ちゃん?
お礼も言えないけど、喉はカラカラだったのでとりあえずご馳走になることにする。
「……美味しい……」
ごくごくそれを飲む私を、養護の先生が笑って見ていた。
「どう? 転校してきて半年以上経ったけど、新しい学校も制服も慣れた?」
前の紺色のセーラー服を、懐かしいと言っていた先生。
この学校の制服は、私には似合ってないんだろうか?
「……全然、慣れないです」
いまだに、1人っきりの時間が多いです。
「あらあら、修学旅行は行けたんでしょう?」
「はい…一応…」
……楽しかった。
人生のなかで、孤独を味あわないで行事に参加できたのはあの時だけだったような気がする。
「友達とケンカでもしたの?」
「……そういうわけじゃ……」
もともと、うまく人間関係築けるタイプじゃない。
仲良くなっても、直ぐに 途絶えてしまう。
いったい、いつになったら本当に心を通わせる人が現れるんだろう?
本当の友達や、好きな人に自分をわかってもらえるんだろう?
淋しいって気持ちに気付いてもらえるんだろう?
わかってもらえないの、苦しい……。
「緒先さん……」
答えは出ない代わりに、熱い滴がポロポロと頬を濡らした。
「……それ、持ってきたの、あなたと同じ匂いのする人よ」