指先からwas唇からlove【再公開】
「待って!」
嫌な予感がした。
物凄い勢いで走っていく亜美ちゃんの後ろ姿を見て、もう、あの子がこっちに戻って来ないような気がして、上履きのまま外へ出て追いかけた。
だけど、熱のせいで体は思うように動かない。
「……さきっ?」
校舎の上から、誰か何か言っていたけど、もうそんなの耳に入っては来なかった。
「亜美ちゃんっ!!」
声も、風邪のせいでカスレカスレで、全然通らない。
誰か、亜美ちゃんの止めてーー
亜美ちゃんの後ろ姿が校門から右手に消える。
そっちは、亜美ちゃんの家の方角じゃなかった。
「亜美ちゃんっ!」
車の通りの多い大通り。
横断歩道の前に立ち止まる彼女の背中を見つけた。
歩行者の信号は赤。
お願い、
どうか、
そのまま立ち止まってて。
息を切らして、亜美ちゃんの背後に近づく。
「亜……」
それと同時に、亜美ちゃんの体は再び前進、
車は左右から勢い良く通っていた。
「亜美ちゃんっ!!!」
亜美ちゃんの体は、行き交う車の中に消えていく。
ププブーーーーー!!
けたたましいクラクションと、大きなブレーキ音、
思わず目を瞑った。
一瞬だけど、
その時、
微かに私の側を、海の薫りが通りすぎたような気がした。