指先からwas唇からlove【再公開】
「誰かっ!」
閉じ込められたトイレのドアを叩き続ける。
体当たりしてもビクともしない。
「誰かいませんかーー?」
叫んでも、シン……としたトイレにこだまするだけ。
九州一大きな競技場でトイレはあらゆるところにあり、ましてや競技真っ只中で一番ハシッコのトイレには人は立ち寄らないのかもしれない。
スマホを取り出して、槇ちゃんに電話をかけてみる。
トゥルルルー……
トゥルルルー……
出ない。
基本真面目な槇ちゃんは、あまり学校生活の中でスマホを触ったりはしない子だった。
他に電話とってくれそうな人……
「共通3000㍍ 男子 選手の方は……」
アドレス帳を見ているうちに、とうとう、海也が出る競技が始まるアナウンスが流れた。
早くしなきゃ!
気持ちばかり焦って、スクロールがうまくいかないところへ、
ブブ♪
【緒先先輩、ハワユー??
中体連なう。先輩も陸上のスタンドに来てますか?】
久しぶりに亜美ちゃんからラインがきた。