指先からwas唇からlove【再公開】
ガタガタ!
ガチャン!
「緒先先輩!」
やっと、トイレから解放された。
どうやらデッキで鍵を固定されてしまっていたようだった。
「……緒先先輩、大丈夫ですか?」
ラインをくれた亜美ちゃんに、電話をかけ直してここまで来てもらった。
「ありがと! 私は何ともない、早くしないと海也がっ」
「でも、先輩、髪になんかついてますよ?」
「……大丈夫あとで取るから!それより亜美ちゃんは、先生か誰かにレーザー光線を持ってる生徒がスタンドにいるって話してきて!
私はそいつら知ってるから見つけて止めてくる!」
ガムなんて、髪の毛なんてどうでもいい。
「先輩、ひとりで怖くないんですか?」
「怖くないよ!人が沢山いるところで何かしてくるほど度胸のある奴らじゃないもん! それより 亜美ちゃん、早く!」
「は、はい!わかりましたっ!」
走りながら思った。
一人は、確かに怖い。
もうイヤだ。
でも、
「共通男子3000㍍、二段階スタートとし、4レーンより内側からS中 中嶋く……」
それより怖いのは、好きな人が挫折したり悩んだり苦しむ姿を見ること。
「5レーンより外側より、M中 坂本くん、……末信くん」
″色々悩ませてゴメンな″
もう、あんな海也の顔は見たくない。
「うおっ海也だっ」
「アイツ、肩にギブスはめてね?」
青いユニフォームの海也の姿が現れると、一際大きな歓声がスタンドから上がってた。
陸上部でもないのに、凄いと思った。
ずっとくすぶっていた海也の実力を、本当は皆知ってたんじゃないかとも思えた。
パアーン!!
スタートの銃声が鳴り響く。
それと同時に、スタンドの上の方で海也を狙うアイツらの姿を見つけた。