指先からwas唇からlove【再公開】
二段階スタートだった各組の選手たちは前方で既に合流していて、海也だけが半周以上遅れて走っている。
「……海也、肩いたそ……棄権じゃだめなの?」
スタンド席からは、″もう見てられない″という感じの空気が流れてて、席を立つ人もいた。
「海也くん……海也くん……」
亜美ちゃんが、少しずつスタンド席の最前列まで近寄っている。
いつの間にか私の手を握っていて、つられて私も最前列へ。
見るのもツラい肩をかばった走りに思わず目を背けそうになったけど、
「海也くーーーん!!!」
亜美ちゃんの甲高い声に気付いた海也が、一瞬、こっちを見て、そして少し走るペースをあげていた。
「海也くん! 海也くん!」
痛みからか何度かペースを落としながらも、
「海也くん、ごめんねーーーー!!」
声をかけられる度にスピードをあげていく。
けして、″頑張って″ じゃない声援を送る亜美ちゃんを、スタンドの皆も驚いた顔して見てた。
四周目、2/3 の順位に……。
「海也、すげー……もう真ん中の順位にまで上がってきたぞ」
本当に、すごかった。
もう、最後の二、三周は肩もかばってなくて、
フォームも乱れてなくてーー
「海也くん、あと三人だよっ!!!」
ベスト3に入る勢いでゴールに近づいてた。
「海也、いけっ!」「マジ記録ぬりかえるかもっ!」
一人、
二人、
三人、
確実に抜いていく。
「海也くーーーーーん!!
今までありがとねーーーーーーーーっ!」
亜美ちゃんの泣きながらの声援とともに、海也は、一番でゴールした。
「やったー!!すげーっ!!!」
「アイツ、化け物っ?!」
ゴールしながら、亜美ちゃんと隣の私を見て微笑んだような気がした。
「あ、海也……尽きた」
海也は、そのままコーチらしき人の腕の中で崩れるように倒れて、担架に乗せられていた。
「良かった………ック………海也くん……ッ……凄い」
泣きじゃっくりで、肩を揺らす亜美ちゃん、
凄いのは亜美ちゃんもだよ。
私、あんなに大きな声で声援なんて出来なかった。
出てきたのは、ただ、ただ、感動の涙……。
止まらなくなった、
″海也を好きだ″ という気持ち。