指先からwas唇からlove【再公開】
「……もしかして、ここ、海也くんの席ですか?」
亜美ちゃんがチョンと指で触った机は、確かに海也の席。
「そうだよ、なんで分かったの?」
夏休み中で、海也の物が置いてあるわけじゃないのに……。
「机に落書きしてあるんですよー、ほら、これ」
海也の机をじっくり見たことなんてない。
亜美ちゃんが指さしたそれを見て、思わず笑ってしまった。
「……これ、なに?」
けして、上手とは言えない鉛筆での落書き。
昔の不良? リーゼントっぽい男の頭から何か棒が生えてる……。
もしや、お釈迦様とかかな?
でも、このリーゼントは?
「海也くん、昔から野球のアニメが好きで。それ多分 ……主人公のゴローだと思います」
「え」
これ、野球少年だったんだ。
じゃ、頭から生えてるのはバットか……。
わかんないわ。
ここまで絵心ないと芸術だなー、
……なんて思ってると、
「うちも、海也くんと同じ教室で勉強してみたかった……」
亜美ちゃんはぺたんとしゃがみこみ、その机にほっぺたをのせ、愛しそうに匂いを嗅いでいた。
「……亜美ちゃん?」
「……うち、なんで海也くんより年下なんだろう?
緒先先輩みたいに同い年が良かった。……そしたら、海也くんに、″妹″ みたいには思われなかったかなぁ」
……気持ち、わかる。
私も失恋したから、感傷に浸りたい気持ちも誰かに話を聞いてもらいたい気持ちも、とても分かる……。
でも、なんか、変。
亜美ちゃんらしくない。
「亜美ちゃん……なんかあった?」
そう尋ねると、 海也の机に涙を一筋落としていた亜美ちゃんは、何か切れたように大量の涙をこぼし始めた。
「……海也くん、いなくなっちゃう」