指先からwas唇からlove【再公開】
「……生野……お前……」
「お邪魔しまーす、ほら緒先先輩も上がって!散らかってるけど」
「お前が言うな」
「あの、お邪魔……します」
「あ……あぁ」
私を見て戸惑う海也は、まだ左の肩をギブスで固定していて、動きが不自由そうだった。
「どこが手付かず?」
引っ越しなら多少慣れてる私。
偶然にもスカートじゃなくて良かった。
「台所……俺も父さんもよく分かんなくて」
海也が申し訳なさそうに段ボールと中敷きの紙や発泡スチロールを持ってくる。
「引っ越すまで自炊は……?」
「しないと思う。コップくらいしか使わない」
「わかった」
お母さんが出ていってどのくらい経つんだろ?
流し台には、食べ残しのこびりついた皿が何枚か放置してあった。
まずは、これからだ。
残り僅かな食器用洗剤でそれをコキコキ洗う。
「……髪……」
「え?」
そんな私を立ったまま見つめた海也が、ちょっと気恥ずかしそうに呟いた。
「前髪、切ったんだな……似合ってる」