指先からwas唇からlove【再公開】
二階へ。
「お父さんとお母さんの部屋別々なんだね」
「そうしないと部屋余るからな」
海也が通してくれたお母さんの部屋は、甘い香水の匂いがまだ残っていた。
「お母さん、荷物どうするの?」
「必要な物は全部持って出ていったって。あとは捨てるなり、売りに出すなりしていいって」
そう言いながら、海也は不燃物のごみ袋を手に持っていた。
「……そう」
こんなに、沢山服も雑貨も残ってるのに……。
全部置いて出ていけるものなんだろうか?
「お父さんと暮らすこと決めたのは、海也なの?」
長いこと単身赴任していたお父さんと二人きりになるって、違和感ないのかな?
うまくやっていけるのかな?
「決めるも何も……母さんは家より男を選んだから。必然的にだよ」
クローゼットの中には、高級そうな衣類やバッグが沢山残っていた。
宝石類も……。
海也は、それを躊躇うこなくごみ袋に入れていき、私も同じように次々に押し込んだ。
そして、派手な下着類まで……。
海也は、それを恥ずかしそうに乱雑に捨てて、
そして、とても淋しそうな顔をした。
「俺が野球やめてから、送迎やそういう付き合いがなくなって、母さんは夜に良く遊びに行くようになったんだ。
……父さんも長いこと家にいなかったし。…きっと…淋しい人だったんだろうと思う」
それでも、お母さんを責めるような事は一言も言わないで、黙々と片づけていた。
「やべ……もう夕方になっちまった」