指先からwas唇からlove【再公開】
階段を昇りながら、
「転校初日に、海也にここに連れてこられたね」
少し前の思い出なのに、とても懐かしく思えた。
「あれは、遥香が勝手に付いてきたんじゃん」
「いや、ふつう初めての教室だから案内してくれると思うじゃない?」
「俺はフツーじゃないからな……っと! 開いた!」
新しくなった南京錠を針金で簡単に開けてしまった海也。
「リペンジ! 最後だから先生勘弁な♪」
嬉しそうに屋上の扉を開けた。
開けた途端、ブワッとあの時と同じように風が顔に当たって思わず下を向いて隠す。
「遥香、もう隠す前髪ないってば」
つい癖で、前髪で顔を隠そうとしたのを、海也に見られて恥ずかしくなった。
「遥香は、かわいくてキレイだから、堂々と顔出していいんだよ」
「誉めすぎ、そんなことないって」
「イヤ、俺が一目惚れしたくらいだから」
「それなら私だって!」
「お? 俺に一目惚れしたの?」
「……ううん、してない」
「なんだよそれ」
一目見て、気になって……。
初めて口きいたとき、ドキッとした。
″その制服、いいな″
決定的だったのは、
「体育の授業で、海也がキレイに走る姿見て、あんな風になりたいって、走りたいって思ったの」
あのキレイなフォーム。
「最後、ぶっ倒れたのに?」
「……うん」
スレ違って、海也の匂いがして、凄く凄く気になって……直ぐに会いたくなって……
「保健室の前でスポーツドリンクを飲む海也の野性的な唇に見とれたんだよ」
「野性……初めて言われた」
嫌われるのが怖くて、それまで人をなるべく見ないようにしてたから……。
だから、人も私のことなんて見てなかったし、
深く立ち入ってもこなかったのに、
海也だけは、違ってたんだ。
″英語の時、いつもこの席がいいな″
″着替えるの手伝って″
ストレートな言動で、つい引き込まれて見てしまう。
どんなときも、目で追ってしまう。
「……見るたびに、近づくたびに好きになってたよ」
重かった私の心のドアを開いたのは、
隣の席の一ノ瀬くんでも、
天真爛漫な亜美ちゃんでもなく、
一人、とんがってた海也だった。
「仲良くなれて嬉しかった……」
最後に、全部の好き、言えた。
「……先に言うなよ」
言い切った私を、海也が抱き締めていた。